古風な世情長篇小説
雪が敷居まで
酷無極 · AI創作 · 4862 字 · 約 13 分
阿穂は塩壺を竹籠に入れ、また取り出した。口に細いひびが入っている。布で包めばそのぶん場所を取るし、包まなければ、息子が新しく借りた部屋に籠いっぱいの割れた陶器を持ち込むことになりかねない。しばらく壺を眺めてから、まず柄杓半分の米をすくいにいった。米が鍋に落ちる音を聞くと、黄豆は戸の陰からのろのろと出てきた。今日も自分のひと口があると思ったのだ。
かまどに火がつくと、鍋の縁からたちまち白い湯気が立った。阿穂は足で低い腰掛けを少し引き寄せ、両手を膝に押し当て、冷えからくる痛みが和らぐのを待った。戸の外の畑には、育ちきらなかった青菜が数株残るばかりだった。霜で縮れた葉の縁は、ほつれた糸がひと巡りしているようだった。昨日摘もうと思ったが、もう一日置けば、ほんのひと口分くらいは育つかもしれないと思い直した。息子がいれば、そのひと口がないからっていったい何だと言うに決まっていた。
足りないのはそのひと口の菜ではなく、立ち去るとき、何を済ませたといえるのか分かることだった。戸棚の上の古い布包みには、亡夫が使った墨縄が入っていた。縄はとうにもろくなり、墨も硬くて押しても色が出なかったが、それでも取り下ろして軽くはたいた。包みの脇には、自分で編み上げたばかりの草履が二足あった。底の目が詰まって履くと足に当たる。それでも町へ持っていって人に見せたかったが、町へ行ってまで山道を歩くのかと息子に笑われそうでためらった。
劉おばさんが入ってきたとき、阿穂は草履を布でくるんでいるところだった。黄豆は足音を聞き分け、頭をもたげただけで、尻尾で床を二度掃いた。劉おばさんは鍋を見るなり、自分が来ると分かっていて、米まで多めに入れたんだねと言った。阿穂は、違う、多めにしたのは息子の分だよと言った。そう言い終えると二つ目の碗を取り、濃いところを半分よそい、鍋底の薄いほうを自分に残した。
劉おばさんは椀を受け取らず、匙を取って半分を鍋に戻した。二度譲り合った末、劉おばさんは立ったまま食べだし、これ以上やってたらあんたの朝飯まで食べることになるよ、と言った。阿穂は、うちまで来て粥をせしめる気だね、と笑って悪態をつき、座るように言った。腰を落ち着けて初めて、さっきまで背をこわばらせていたことに気づいた。こうしてきちんと座ると、この家でもうひと冬暮らせそうな気がした。
劉のおばさんは太い麻縄をひと束持ってきた。去年、薪を束ねたときの残りだから、木屑がついていても気にするなと言った。腰の鍵束が椀の縁に当たり、澄んだ音を立てた。茶小屋の鍵も持っているのかと阿穂が聞くと、劉のおばさんはうなずいた。先月葺き直した屋根はもう二度の雨に持ちこたえたから、今日ほんとうに雪になれば、漏るかどうか見るのにちょうどいいと。何でもないことのように言いながら、腰のところでいちばん長い鍵をそっと握った。
茶店を閉めて二年になるが、劉おばさんは市のたびに中に入って足を休めていた。息子に長椅子を油屋へ運ぶよう言われ、何度も承知し、そのたびに忘れた。阿穂(アースイ)は、忘れたわけではないとわかっていたから、わざわざ思い出させもしなかった。劉おばさんは椀の底をこすりながら、春になったらまた少し茶を沸かしたいと言った。町から来る客は新茶の味を知っている。自分には大きな薬缶で煮出す薄い茶しか売れないが、まだ飲む人がいるだろうか、と。
「喉が渇けば飲むよ」阿穂はすぐに答えた。「それに慎は今じゃ町にいるし、付き合いがあるのは店をやってる人たちばかりだよ。戸を直してもらった家なら、あの子の顔を覚えてるだろうしね」
劉のおばさんが目を上げて笑った。阿穂も笑った。笑ったあとで、息子が今どんな具合にやっているのか、もう少し聞いてほしくなったが、劉のおばさんが聞いたのは、草履二足は犬にかじらせるために置いていくのか、ということだけだった。阿穂は布包みをきつく結び直し、さっきの話はすべて自分の想像だとは言わなかった。許慎は帰ってきても木仕事の話ばかりした。何本挽いたとか、雨で湿って木が割れたとか。人から何と呼ばれるかは話したがらなかった。
劉のおばさんは衣類をひと包みにまとめるのを手伝い、その中から、腕のところが透けるほど薄くなった上着を一枚取り出した。阿穂は、それは何年も炊事に着たもので、冬に下へ重ねるといちばん暖かいと言った。劉のおばさんは捨てろとは言わずに戻した。それからかまどの裏を探って硬い木片を取り出し、まさかこれまで車に載せないだろうねと言った。阿穂は受け取って、許泊が石臼の軸を取り替えたときの残りだと気づいた。芯の詰まった木で、何年もかまどの裏にあったので、また元の場所へ押し戻した。
「あの子が来たら欲しがるよ」と阿穂は言った。実のところ、前に息子が来たときは、そこに一度も目を向けなかった。
正午前に空が低くなった。劉のおばさんは雪を心配し、空になった椀を洗って、許慎を待たずに帰ることにした。阿穂は中庭の端まで見送り、きつく縛った両の裾が枯れ草の間を交互に進むのを見て、ふと呼び止めた。町の南の川に架かる橋は、また少し継ぎ足されたのかと聞いた。劉のおばさんは振り返り、自分だって見たことがないのに、もうそっちのほうが気になるんだねと言った。阿穂は、通りがかりの人から聞いたから、ちょっと尋ねただけだよと答えた。部屋に戻っても、口元の笑みを少しも隠しきれなかった。
許慎が着くと、肩に担いだ布団の巻き包みに細かな雪がいく粒か落ちていた。黄豆は真っ先に吠え、二声で相手が分かると脚にすり寄り、もう少しで許慎を戸枠に押しつけるところだった。許慎は片手で犬を支え、もう片方の手で戸を持ち上げ、まだ足元も定まらないうちから、どうしてこの戸はまた下がったんだと言った。包みを受け取った阿穂は、その「また」を聞いて、前はたしか閂の溝に薄い竹片を一枚かませただけだったと思い出した。
許慎は新しい掛け布団を寝台に置き、縁を指でなぞった。数か月目を離しただけで姿が変わってしまう木の道具を調べるようだった。阿穂が先に食べなさいと言っても、彼は戸口に立って開け閉めを試していた。戸の下端が動くと木くずがぱらりと落ちた。しゃがんで触れると、灰白色の柔らかな粉が指の腹につき、顔が少し曇った。上の軸はまだよかったが、下の軸受けは深くすり減り、前にかませた竹片は擦り切れて穴が開いていた。
「明日の朝にはもう出るんだよ」許慎は立ち上がって手を払った。「この前、戸の裏に薪を押し込まないでって言ったけど、聞いてたのかどうか」
阿穂は小さな二束の乾いた薪を見て、答えなかった。雨が降れば庭では濡れ、戸の後ろは彼女が運べる一番近い乾いた場所だった。息子は入るなり戸を見たが、寝床の脇の新しく掃いた地面も、新居のために取っておいた小さな布の敷物二枚も見なかった。彼のためによそった粥を鍋に戻して温め直し、杓子を鉄の縁に当て、わざといつもより少し強い音を立てた。
音を聞いて許慎は振り返り、火が弱いのかと聞いた。阿穂は、燃えてるよ、よく燃えてる、と答え、それから、寝床も鋸で切って持っていくかい、と聞いた。彼はそこでやっと笑い、町には寝床があるから、こんな古いものを担いでいかなくていいと言った。南の窓の話になると声が明るくなり、壁に手を伸ばして斜めに射す光の筋を示し、窓の下にどの小机が置けるかまで詳しく話した。阿穂はそれを聞くうち、さっきの苛立ちが湯気の中でほどけたが、忘れたわけではなかった。
食後、荷物をまとめていると、二人はまた大きな戸棚のところで手を止めた。許慎は、いくら車が広くてもこれは持っていけない、町の家の戸口を測ったが通らない、と言った。阿穂は一番下の引き出しを引き開け、椀半分ほどの大きさの糸玉、布に包んだ針を数本、擦れて曇った小さな銅鏡を一枚取り出した。戸棚にはもとから大して物はなかった。引き出しを押し戻し、残りはどこに置くのかと聞くと、許慎もとっさには答えられなかった。
結局、引き出しを一つだけ持っていくことにした。許慎(シュー・シェン)が木釘を外し、阿穂(アースイ)は古着で底板をきれいに拭き、町の家に戸棚がなければ、これを寝台の下に置くだけでも足りると言った。中に出来損ないの針筒があり、側面に鋸の跡が見えた。彼が尋ねようとすると、母はもうその上に銅鏡を伏せていた。あの筒は自分が彫ったものだ。母は机の脚の下から半分を拾い戻していたのに、一度も彼に話したことがなかった。
雪が密になると、許慎は薪を分けに庭へ出た。阿穂は余った分を燃やしてしまうのかと思い、急いで戸口へ見に行った。息子は今夜の分だけ運び込み、残りは壁際に積んで破れたむしろを掛け、草履二足は持っていくのかと聞いた。阿穂が口を開く前に、布靴は町で買う、冬にこんなのを履かなくていいと先に言った。彼女は息子の手にある草履を見つめ、受け取って、ひとまず置いておくよ、おまえが布団を敷く邪魔にはならないから、とだけ言った。
日が暮れても閂はすんなり入らなかった。許慎は取り外し、部屋に残るわずかな明かりで片面を削り、二度試したが、扉ごと外す勇気はなかった。壁の軸受けも古く、堅いところを手で確かめずに穴を開けると、穿つほど緩みかねない。長い錐は店に置いてきた。持ってきた小さな鑿では、少しずつ直すしかない。眉を寄せる彼を見て阿穂は、明日発てば、閉まりが悪くても見る者はいないのに、何をそこまでと言った。彼は答えず、木の閂をかまど脇に立てかけ、とっくに冷めた湯を手に取った。
ここから四里離れた槐樹岔では、道標がほんの片隅しかのぞいていなかった。陳生は荷縄を肩の後ろへずらし、板の雪を払って「城」の一字を読み取ったが、矢印の先までは見えなかった。昨夜は石口に泊まり、今朝は早めに県城へ着いて賃金を精算するつもりだった。途中で頼まれた太糸を一軒に届けて余分に歩いたうえ、擦り切れて口の開いた靴底を縫うために立ち止まる時間も惜しんだ。
担いでいたのは粗造りの壺二十四個で、底に稲わらを詰め、天秤棒の片側の大籠に分け入れていた。もう一方は木綿の布とこまごました品を油布で包んだ荷だった。空の壺ばかりでも、肩は重みでしびれた。壺の口に白く輪を描いて雪が積もるので、しばらく歩くたびに払わなくてはならなかった。濡れたわらが壺の内側に貼りつけば、店に着いてからきれいにしていないと言われかねない。薬屋は道のりに応じて駄賃を払うが、壺を割ったときは、ことのほかきっちり数を勘定した。
分かれ道を進んで二つ目の杉林へ入ったころ、もう道を間違えたとわかっていた。大通りならこんなに急に上るはずもなく、道端に一人分の古い足跡しかないはずもなかった。荷を下ろして干し飯を一口取ろうとしたとき、後ろ側の湿った古縄が突然ほどけた。陶器の甕が凍りついた石にぶつかり、幾重にも重なる音を立てた。雪の下で誰かが小太鼓をせわしく叩いているようだった。手を伸ばして止めようとしたが、掌に触れたのは冷たい割れ口だけだった。
十二個目を数えて、もうやめた。油布の側はまだ無事だったので、まず木綿をかばい、割れなかった壺を体の前へ移した。何度試しても、釣り合いを取り直して担ぐことはできなかった。口の開いた靴底から雪がしみ込み、一歩ごとに足の指の下に氷のかけらを押しつけるようだった。遠くに低い屋根が見え、茶店だと思ったが、近づくと犬が吠え、中から誰かがひと声応じた。少し年老いた声だった。
陳生は庭の外で足を止め、傾いた荷を足元に下ろし、粗末な木戸を手の甲でそっと叩いた。戸の向こうで木を削る音が繰り返し聞こえていたが、ふとやんだ。陳生はまず道を間違えたと伝え、次に湯を少しもらえないか尋ねた。雪にのみ込まれそうな小声だった。戸の向こうで男が、うちは明日引っ越すんだと言った。陳生は慌てて脇へ退き、分かりましたと答えたが、手は持ち縄のなくなった竹籠をまだ握っていた。
· この章 終 ·
本書はAIの支援を受けて独自に執筆した作品で、劉長卿の『逢雪宿芙蓉山主人』と当サイトの短篇『雪の夜、戸を開けて待つ』をもとに長篇化しました。人物、県城、経路、筋立てはいずれも唐代の趣を持つ架空の創作であり、原詩の翻訳や詩人の伝記ではありません。
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